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ケミカルリサイクル動向

ケミカルリサイクルとは、化学的手法により使用済みプラスチックを元の形に分解し、高品質の新しいプラスチックに変換する製造工程のことである。リサイクルしにくいプラスチックを再利用可能な資源に変えることが可能となる。従来のリサイクル方法に比べ、より多くの種類のプラスチック処理が可能であり、例として機械的にリサイクルできない食品残渣を含むプラスチックを、食品、医薬品、医療において使用する新しいプラスチックに変換できる。

熱分解(熱を利用)、溶媒分解(溶剤を利用)、酵素分解(酵素を利用)、溶解(溶剤を利用)、ガス化(プラスチック廃棄物をプラスチック製造の中間原料である合成ガスに変換)などのプロセスを通じてポリマーを分解する100以上の技術から構成されている。

2023年現在、米国、イギリス、ドイツ、韓国などでケミカルリサイクルプラントの建設が進んでいる。

注目の理由

現在、世界的にポリマーの需要が高まっていることが、ケミカルリサイクルが注目される理由の一つとなっている。環境負荷の少ない製品を製造したいと考えている、消費財、包装材などを製造する世界的企業の80社以上が、2025年までに包装材のリサイクル率を15〜50%にすることを公約としている。再生プラスチックの利用は進んでいるが、それを食品用に使用することは、汚染物質などの安全性の問題から、特に困難となっている。そこで、再生プラスチックを炭化水素や前駆体、元素のレベルに変換し、他の工程で化学原料として利用する高度なリサイクルが提案されている。また、一部のケミカルリサイクル技術では、汚染の可能性が高い混合プラスチックを含む、さまざまなポリマーを受け入れることができるため、メカニカルリサイクル(プラスチックを機械的に粉砕して粒状にする)を補完すると期待されている。持続可能性という点でもメリットがあり、例えば、ポリマーの生産に化石燃料ではなく廃棄物を使用し、プラスチック廃棄物を埋立地や焼却場から転換することができる。国・地域によっては埋立地が満杯になりつつあり、焼却では二酸化炭素の排出が懸念される中、代替手段を提供することになる。

EU(欧州連合)におけるケミカルリサイクルの動向

欧州で廃棄物削減に取り組むNGO「Zero Waste Europe」は、プラスチックのケミカルリサイクルは最小限にすべきなどの原則を示す文書を、標準化を専門とする欧州NGOのECOSとドイツの環境団体Deutsche Umwelthilfe(DUH)と共に作成し、2022年5月8日に公表した。3団体は、最近ケミカルリサイクルが、プラスチックに起因する環境影響の軽減に貢献でき環境にやさしい技術と宣伝されているが、ケミカルリサイクルがライフサイクル全体で環境に与える影響については十分な知見が得られていないと警告し、ケミカルリサイクルが広く普及するためには、環境と気候への影響を軽減するような方法で設計・実施され、プラスチックの使用低減、再利用、メカニカルリサイクルを優先的に行ったうえで、他に手段がない場合の補完的な手段として用いることが重要であるとしている。その上で、3団体は、プラスチックの循環型経済の実現に向け、以下のような原則を提示した。

  • 製品はライフサイクル全体を考慮して、原料の削減、再利用、メカニカルリサイクルが可能となるよう設計されるべき
  • ケミカルリサイクルおよび再生技術は、環境影響評価に基づき廃棄物管理の優先順位においてメカニカルリサイクルの下に位置付けられるべきであり、ケミカルリサイクルはメカニカルリサイクルが不可能な劣化した頑丈なプラスチック廃棄物に限定されるべき

さらに、欧州のプラスチックバリューチェーンを代表する30超の業界団体は2023年3月22日に共同声明を発表し、ケミカルリサイクルに関するマスバランス方式に基づくリサイクル材料含有率のEUレベルで調和された計算手法を2023年内に制定するよう求めた。共同声明は先ず、ケミカルリサイクルの役割の重要性を強調した。コスト、環境性能、リサイクル率の面でメカニカルリサイクルが今後も好ましい選択肢であるものの、リサイクルのさらなる拡大には全技術への投資強化が必要であり、特にケミカルリサイクルは、メカニカルリサイクルが適さない原料を使用したプラスチック廃棄物からプラスチックを含む新しい化学物質を生産することができ、安全面・規制面・性能面から高品質のリサイクルプラスチックを必要とする分野(医薬品、食品、化粧品など)で使用される包装や、医療機器、自動車部品、建設製品など、多くの用途に、高品質材料を提供できるとしている。

米国におけるケミカルリサイクルの動向

ケミカルリサイクルは、米国では「高度なリサイクル(Advanced Recycling)」と呼ばれている。2023年9月現在、23州において高度なリサイクルを製造業として認め、固形廃棄物処理と区別する法律が制定されている。ほとんどの州法は、廃棄物処理プロセスを対象とする環境法を回避するためにプラスチック廃棄物を「原料」に再分類すること、「リサイクル」の定義を変更してケミカルリサイクルとその製品を含めること、ケミカルリサイクル施設を州の補助金やその他の財政的インセンティブの対象とすること、という主に3つの方法でケミカルリサイクルを奨励している。

また、米政府監査院(GAO)は2021年9月、プラスチック廃棄物のケミカルリサイクルに関するレポートを公表した。米国におけるプラスチック廃棄物の現状や従来のリサイクルの課題、ケミカルリサイクル技術とその導入にあたっての課題についてまとめられている。米国のプラスチック廃棄物は、1970年から2018年にかけて10倍に増加しているが、本レポートによれば埋め立てられる廃棄物は75.5%にのぼり、15.8%は焼却されており、リサイクルされるのは残りの8.7%にとどまるという。プラスチック廃棄物が埋め立て地や海に捨てられることで、生態系を汚染し、人間の健康や野生動物に悪影響を及ぼすことが懸念されている。現在、プラスチックのリサイクルで主流となっているのはメカニカルリサイクルで、選別、粉砕、洗浄、分離、乾燥、再粉砕などの物理的プロセスを用いてプラスチックを回収し、それをバージンプラスチックの代わりに使用するものだが、メカニカルリサイクル技術は多くの費用と労働力を要するにもかかわらず、得られるプラスチックは一般的にバージンプラスチックよりも低品質なものである。そのため、メカニカルリサイクルを代替、補完するものとして、先進的なケミカルリサイクルが検討されている。

セミナー・イベント情報

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「親会社および発注元企業の配慮義務に関する2017年3月27日の法律」を遵守していないと主張し、パリ司法裁判所に提訴。
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