
EU オムニバス法案
欧州連合(EU)の行政執行機関である欧州委員会は、企業の規制遵守負担軽減に向けて複数の現行法令の簡素化を一括提案する「オムニバス法案」を2025年2月から7月の間に6回に分けて多数、公表してきた。
- 第1弾(2025年2月26日公表):
持続可能性報告、持続可能性デューデリジェンス(DD)、CBAM(炭素国境調整メカニズム)、タクソノミー - 第2弾(2025年2月26日公表):
投資関連 - 第3弾(2025年5月14日公表):
農業関連 - 第4弾(2025年5月21日公表):
企業区分、電池デューデリジェンス(DD)、デジタル化 - 第5弾(2025年6月17日公表):
防衛関連 - 第6弾(2025年7月8日公表):
化学製品関連
オムニバス法案の目的は、企業の規制遵守負担や関連コストを軽減することで、例えば、現行法令で規定されている要求事項の適用開始日の延期や、対象企業の範囲の限定などが提案されている。欧州委員会は、新たな成長戦略「クリーン産業ディール」(2025年2月公表)で欧州産業の競争力強化を今後の方針として掲げたが、オムニバス法案をその実現に向けた重要な施策として位置づけている。
以下では、オムニバス法案で環境規制の点から関連性が高いと見られるものを抜粋してリスト化し、対象法令、簡素化の概要について整理する。
オムニバス法案 第1弾
法案名 | 対象法令 | 簡素化の概要 |
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① CSRDおよびCSDDDの適用開始日を延期する指令案2025/0044 (COD) 指令(EU) 2025/794として2025年4月16日公布、翌日発効 |
(EU) 2022/2464:企業持続可能性報告指令(CSRD) | ②の成立を待つため、両指令の適用延期のみを内容とする「stop the clock」法
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(EU) 2024/1760:企業持続可能性デューデリジェンス指令(CSDDD) | ||
② CSRD、CSDDD、監査指令2006/43/EC、会計指令2013/34/EUの4指令を改正する指令案2025/0045 (COD) | (EU) 2022/2464:企業持続可能性報告指令(CSRD) |
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(EU) 2024/1760:企業持続可能性デューデリジェンス指令(CSDDD) |
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2006/43/EC:監査指令 | 26a条(持続可能性報告の保障基準)で定める欧州委員会の委任法採択の期限(日付)を削除 | |
2013/34/EU:会計指令 |
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③ CBAM規則を簡素化する規則案2025/0039 (COD) | (EU) 2023/956:CBAM(炭素国境調整メカニズム)規則 |
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④ タクソノミー情報開示委任規則(EU) 2021/2178ならびにタクソノミー気候委任規則(EU) 2021/2139とタクソノミー環境委任規則(EU) 2023/2486を簡素化する欧州委員会委任規則の草案 | (EU) 2021/2178:タクソノミー情報開示委任規則 | 非財務情報の開示内容と示し方を簡素化 |
(EU) 2021/2139:タクソノミー気候委任規則 |
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オムニバス法案 第4弾
法案名 | 対象法令 | 簡素化の概要 |
---|---|---|
① 中小企業(SME)向け特定緩和措置のSMCへの拡大と一層の簡素化策に関し6規則を改正する規則案2025/0130(COD) | (EU) 2016/679: 一般データ保護規則 (GDPR) | 事業拡大で生じるコンプライアンス義務の障壁や費用を減らすため、新たな企業区分「小型中資本企業(SMC:Small Mid-Cap companies)」を導入:従業員数750人以下、売上高1億5000万ユーロ以下、または総資産1億2900万ユーロ以下の企業
※電池規則については、遵守状況に関する報告書の企業による公表を、毎年ではなく3年ごととすることや、電池DD義務の対象を現行の「純売上高4000万ユーロ以上」から「純売上高1億5000万ユーロ以上」の経済事業者へと狭めることを提案 ※Fガス規則については、2026年に約1万社のFガスポータル登録を免除し、登録を「年間Fガス閾値を超過する輸入業者」と「域内で禁止され、輸出制限の対象となっているFガスを含む特定の製品・設備の輸出業者」に限定 |
(EU) 2016/1036:加盟国以外のダンピング輸入対抗規則 | ||
(EU) 2016/1037:加盟国以外の助成を受けた輸入品対抗規則 | ||
(EU) 2017/1129:目論見書規則 | ||
(EU) 2023/1542:電池規則 | ||
(EU) 2024/573:Fガス規則 | ||
② SME向け特定緩和措置のSMCへの拡大と一層の簡素化策に関し指令2014/65/EUおよび(EU) 2022/2557を改正する指令案2025/0131(COD) | 指令2014/65/EU:金融商品市場指令(MiFID II) | 事業拡大で生じるコンプライアンス義務の障壁や費用を減らすため、新たな企業区分「SMC」を導入(①と同様) |
(EU) 2022/2557:重要事業体レジリエンス指令 | ||
③ 電池デューデリジェンス(DD)に関わる経済事業者義務に関し電池規則を改正する規則案2025/0129 (COD) | (EU) 2023/1542:電池規則 | 電池DD義務の適用開始を現在の「2025年8月18日」から「2027年8月18日」に変え、欧州委員会による関連ガイドライン公表期限を「2025年2月18日」から「2026年7月26日」に変更 |
④ デジタル化と共通仕様に関し13指令を改正する指令案2025/0133 (COD) | 2000/14/EC:屋外使用機器の騒音に関する指令 |
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2011/65/EU:RoHS指令 | ||
2013/53/EU:レクリエーション用船舶・水上オートバイ指令 | ||
2014/29/EU:単純圧力容器指令 | ||
2014/30/EU:電磁両立性(EMC)指令 | ||
2014/31/EU:非自動はかり指令 | ||
2014/32/EU:計測器指令 | ||
2014/33/EU:エレベーター及び安全部品指令 | ||
2014/34/EU:爆発性雰囲気で使用する機器および保護システム(ATEX)指令 | ||
2014/35/EU:低電圧(LVD)指令 | ||
2014/53/EU:無線機器(RED)指令 | ||
2014/68/EU:圧力機器(PED)指令 | ||
2014/90/EU:船舶用機器(MED)指令 | ||
⑤ デジタル化と共通仕様に関し7規則を改正する規則案2025/0134 (COD) | (EU) No 765/2008:製品上市・市場監視規則 | |
(EU) 2016/424:旅客用ロープウェイ設備規則 | ||
(EU) 2016/425:個人用保護具規則 | ||
(EU) 2016/426:ガス燃料燃焼機器規則 | ||
(EU) 2023/1230:機械規則 | ||
(EU) 2023/1542:電池規則 | ||
(EU) 2024/1781:エコデザイン規則(ESPR) | ||
⑥ SMC定義に関する欧州委勧告(EU) 2025/1099 | ― | SMCの定義の詳細を示す |
オムニバス法案 第6弾
法案名 | 対象法令 | 簡素化の概要 |
---|---|---|
① 規則(EU) 2024/2865の適用開始日および移行措置を修正する欧州議会および理事会規則案2025/0526 (COD) | (EU) 2024/2865:「規則(EC) No 1272/2008(CLP規則)」の改正規則 | 同改正規則で規定されている強制フォーマット、広告および通信販売、ラベル更新期限、および燃料ポンプのラベル表示に関する要件の適用開始日を延期 |
② 化学製品における特定の要件および手続きの簡素化のため3規則を改正する規則案2025/0531 (COD) | (EC) No 1272/2008:CLP規則 | ラベル表示、広告、および通信販売に関する要件の変更など |
(EC) No 1223/2009:化粧品規則 | 新規物質の附属書への追加のための簡素化プロセスの導入など | |
(EU) 2019/1009:肥料規則 | REACH規則下での登録要件の廃止など |
(最終更新:2025年7月22日)
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2021年8月9日 |