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欧州のEV政策変更で勝つ企業と苦戦する企業 – 仏レゼコー紙論説

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欧州委員会は2025年12月16日、自動車産業向けのCO2排出規制を見直し、2035年に予定されていた「新車100%ゼロエミッション」という象徴的目標を実質的に後退させた。電動化の遅れが現実問題となる中での軌道修正となるが、この政策転換は欧州自動車産業の勢力図に明確な「勝者」と「敗者」を生みつつある。フランスの経済紙レゼコーは、「電気自動車:欧州の転換による勝者と敗者」と題する記事(2025年12月17日)でこうした状況について報道している。以下にその概要をまとめる。

ドイツは全面勝利ならず、限定的な譲歩にとどまる

一見すると今回の政策変更は、技術中立性の維持や2035年以降の内燃機関車販売余地を残した点で、ドイツの主張を反映したものに映る。独フォルクスワーゲンも「現実的判断」と評価した。しかし実際には、排出削減率は100%から90%へと小幅な緩和にとどまり、緩和分の10%は欧州産の低炭素鋼材やバイオ燃料での相殺が求められる。加えて、ドイツが強く求めていたプラグインハイブリッド車のCO2算定方式見直しは認められず、業界内には失望感も残った。

2030年目標の「平準化」が全メーカーの救済策に

今回の見直しで最も歓迎されたのは、2030年の排出削減目標(乗用車で▲55%)を単年達成ではなく、3年間平均で評価する仕組みが導入された点である。EV販売の伸び悩みを踏まえた現実的措置であり、多くのメーカーにとって罰金リスクを和らげる「時間稼ぎ」となった。業界関係者が真に危機感を抱いているのは2035年よりも、むしろ2026~2030年の短期目標であることが浮き彫りになった。

「小型EV」が最大の勝者、仏メーカーが有利に

今回の政策変更で明確な追い風を受けたのが、小型電気自動車(EV)である。全長4.2メートル未満の「M1E」という新カテゴリーが創設され、今後10年間は新たな規制負担を極力抑える方針が示された。さらに、一定割合以上の欧州製部品を使用した車両には「スーパークレジット」が付与され、1台が1. 3台分としてCO₂規制上カウントされる見通しだ。この分野を得意とするルノーやステランティスは明確な勝者である。ルノーは「R5」や「R4」、ステランティスはシトロエン「ë-C3」やフィアット「グランデパンダ」など、多数の該当モデルを抱えている。一方、フォルクスワーゲンの主力EV「ID.3」は車体が大きく、この恩恵を受けられない。

フランス政府は「メイド・イン・ヨーロッパ」で敗北

フランス政府が最後まで求めていた「欧州製部品75%以上」という明確なローカルコンテンツ要件は、今回のパッケージには盛り込まれなかった。欧州委員会は判断を先送りし、2026年1月に予定される「産業加速法」に委ねた形となった。結果として、フランスは規制緩和と引き換えに産業保護を勝ち取れず、戦略は失敗したと言える。

商用車と企業フリートは依然として不透明

商用車分野では、2030年の排出削減目標が50%から40%に引き下げられたものの、ステランティスが求めていた30%には届かず、抜本的解決とは言い難い。現在も販売の約8割がディーゼル車であり、電動化率は1割未満にとどまっている。また、企業フリート向けのEV義務化では、GDPに応じた国別目標が設定される見通しで、ドイツの大企業ほど厳しい制約を受ける一方、東欧や南欧諸国は相対的に緩やかな水準となる。この仕組みは域内市場の分断を助長する可能性も孕んでいる。

EVシフトは「後退」ではなく「長期戦」へ

レゼコー紙は今回の政策変更を、EV政策の放棄ではなく「時間軸の引き延ばし」と位置づけている。電動化の方向性自体は維持されるが、そのペースは現実に合わせて緩められた。結果として、柔軟性を活かせる企業、特に小型EVや低コストモデルに強みを持つメーカーが有利となり、重厚長大型のEV戦略を進めてきた企業は調整を迫られる局面に入った。欧州のEV転換は、もはや一直線の政策目標ではなく、政治・産業・市場の妥協の中で進む「持久戦」へと性格を変えつつある。

EnviX(弊社)コメント

欧州EV政策は「全面EV化」から「小型・低価格・段階的電動化」へと現実路線に転じており、日本メーカーにとっては小型EVやハイブリッドを含む柔軟な商品戦略の余地が広がっている。一方で、欧州域内調達や規制対応力が競争力を左右するため、技術力だけでなく現地生産・部品戦略を含めた総合対応が不可欠となるであろう。

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