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欧州委 2035年のICE車販売禁止の見直しを前倒し、柔軟性を導入へ

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欧州委員会は2035年に予定されている内燃機関(ICE)車両の販売禁止について、柔軟性を導入する方向で調整を進めている。2025年9月12日に欧州委員会が開催した「欧州自動車産業の未来に関する戦略的対話(Strategic Dialogue)」では、自動車業界の代表、産業界団体、環境・気候関係団体などが一堂に集まった。2035年目標の実行可能性と制度設計の幅について議論が交され、早期に「自動車部門に関する産業行動計画」を展開する必要性が関係者間で再確認されるるとともに、バッテリーなど3分野におけるEUレベルでの研究開発の加速に向けた覚書が締結された。フランスのルモンド紙等の関係報道によれば、以下のような主張・論点が中心になった。

「見直し条項(clause de revoyure)」の前倒し実施

もともと見直し条項は2026年に実施予定とされていたが、フォン・デア・ライエン委員長は「できるだけ早く」見直す意向を示し、2025年末までに柔軟措置案を提示し、2026年初頭の立法準備を可能とするスケジュールを受け入れた。禁止そのものは2035年堅持との前提を崩さず、制度の「調整可能性」を持たせる方向にある。

柔軟措置・例外導入の要請

欧州自動車工業会(ACEA)を中心とした自動車業界や各国メーカーは、「2035年目標は達成不可能」との見方を強調し、次のような項目を対話で強く訴えた。

  • プラグインハイブリッド車(PHEV)の販売延長
  • レンジエクステンダー付き電動車(EV+小型ICEを補助的に用いる形式)の取り扱い
  • バイオ燃料や合成燃料(e-fuel)利用車に対する扱いの見直し
  • 小型・低価格車向け規制の緩和(既存の厳しい技術要件やhomologation規則の簡素化
  • 技術中立性(特定技術を排除せず、複数技術選択肢を維持)という原則の明文化

制度の曖昧化リスクへの懸念

環境団体・政策監視団体の観点からは、柔軟性導入がCO₂削減目標の「明快さ」や「予見可能性」を損ねかねないとの懸念が示された。欧州の環境保護団体トランスポート・アンド・エンバイロンメント(T&E)は、会合を終えて「柔軟性が目的そのものをぼかす可能性がある」という懸念が残ると評価している。しかしながら、同時に、業界側が「電動車販売を拡大したい」という意志を明示した点については肯定的に受け止めている。

地域部品含有率(ローカルコンテンツ)の強化議論

自動車産業界からは、欧州で販売される車両に含まれる部品の欧州産比率を高めるようなインセンティブまたは義務づけを求める声も出た。これにより、国外部品・部材(特に中国などからの輸入バッテリーや部品)への依存を抑制し、地域産業基盤を強化する狙いがある。

これを巡って、欧州委員会は「将来的に関心を払う」姿勢を示したが、慎重を期すとも言及した。

二つのワーキンググループ設置案

フォン・デア・ライエン委員長は、対話中に以下の二つワーキンググループの設置を提案した。

  1. 小型・低価格車グループ:欧州で製造され、手頃な価格で供給できる車両向けに規制を緩和したクラス設計を議論
  2. 技術中立性グループ:ハイブリッド車、e-fuel利用車、レンジエクステンダー車などを含めた技術選択肢をどのように扱うかを定義

EnviX 注

EUは2035年のICE車の新車販売禁止の大枠は維持しつつ、業界・加盟国からの圧力を受けて「柔軟性」を加えた運用にシフトしている。ハイブリッド車や代替燃料車の扱い、電動化のコスト負担軽減、欧州産業の競争力確保が焦点となり、実質的には「一律禁止」から「条件付き移行」への政策転換が進みつつあると言える。今後2025年末までに欧州委員会が提示する柔軟措置案の内容が注目される。

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EU ELV指令/ELV規則案 2018年12月1日

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