水ビジネス~海水淡水化に求められる技術と市場
<規制主導で生まれた新市場~バラスト水処理装置>
ビジネスは、政策や法規制により大きな影響を受ける。バラスト水処理装置の例も、規制がビジネスに影響を与えた例の一つである。
バラスト水とは、空荷の船舶が航行する際、船舶を安定させるために船腹に積む海水のことである。バラスト水は、出航地周辺で取水され、港に到着後に排水されるが、取水時にまぎれ込んだ海洋生物が周辺海域の海洋生態系に悪影響を与えるため、国際的な排出規制の動きが進んでいる。2010年にバラスト水処理装置を船舶に搭載するよう義務付けるIMO(国際海事機関)の条約が発効するため、2兆円に達するとも言われるバラスト水処理装置市場は、今、注目を集めている。
<規制強化により期待される新市場~ブライン・リサイクル技術>
同様に、今後、規制が強化されることにより市場が期待される技術の一つに、ブライン・リサイクル技術がある。
ブラインとは、海水淡水化により生じる副産物である”濃縮塩水”のことである。ブラインは、海水に比べ塩分濃度が高く、また塩分に限らずその他の海洋汚染物質の濃度も高くなることから、海洋に排出した際の海洋生態系への悪影響が懸念されている。
そのため、例えば、海水淡水化を奨励する政策を掲げているイスラエルでは、ブラインの排出口を沿岸より300m以上沖合いに設置する、あるいは、ブラインが拡散しやすいように排出口を設計する、といった規制を定め、海洋生態系に配慮している。
ブラインを拡散させることは、生態系への影響は緩和する点では効果があろう。しかしながら、ブラインを海洋に排出している限り、海洋の塩分濃度は上昇する一方であり、本質的な解決にはならない。そこで必要となるのが、ブラインの完全リサイクルである。
中東地域の地中海や紅海、ペルシャ湾といった海洋は、閉鎖性海域である。そのため、ブラインによる海洋汚染は特に大きな問題となる可能性が高いが、同時にこれらの地域では淡水化への需要も大きい。
従って、淡水化技術を利用しつつ海洋生態系を守るためには、ブラインのリサイクルが必要不可欠であり、今後、ブラインの排出に関する規制が強化される可能性は十分に考えられる。規制強化が進めば、ブライン処理装置やリサイクル技術の新たな市場が生じると予想される。
<規制に影響を与える”生物多様性”>
ちなみに、バラスト水やブラインの排出は、海洋生態系の保護という観点から規制が進んでいる。つまり、これら規制は、世界の動向が”生物多様性”に配慮するよう動き出していることを示している。
日本でも、2010年に名古屋で開催される生物多様性条約締約国会議(COP10)に向けて、”生物多様性”に注目が集まっている。上述の例のように、今後、生態系や生物多様性の保全のために規制強化が進み、新たな市場が形成されることも十分考えられるので、企業は、”生物多様性”をめぐる規制や市場にも気を配る必要があるだろう。
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